漆というメディアは、頭の中に描いたものが目の前に現われるまでとても時間がかかります。
まず木地ができあがってくるまでに半年以上(木を乾燥させる期間も必要です)。
そこから漆の作業に入りますが、仕上がりまで当初考えていた時間の三倍かかったなんてことが普通だったりします。
なぜなら、漆を塗るためには入念な下地が必要だからです。少しの面の揺らぎもなく、小さなピンホールもないような滑らかな完璧な状態の面を作りあげることでようやく、漆を塗った時に美しさが立ち現れます。
私が漆は液状のときが一番美しいと感じるのは、粘度の高い液状の漆ならではの、表面張力で張り詰めた究極的に滑らかな面が、そこに現われるせいかもしれません。
ですから、がさがさの面やぴしっと面のできていない素地に塗っても美しくはなりません(大胆さを求めたり、おどろおどろしい漆の表情を引き出すというようなアプローチの作品には有効かもしれませんが)。
下地ができて塗り工程に入ってからも、さらに塗面を平滑にしていくために塗りと研ぎを繰り返します。
その特性ゆえ、下地では面を研ぎ澄まし、塗りでは厚さを均一に塗り、また埃を徹底的に排除するという職人的な技が必要になってきます。
しかもそのすべての一工程ごとに、半日から一日以上漆が乾く時間が必要です。
どんなに人間がファストライフを過ごしていても、漆の乾くスピードは古来から変わらない。
現代の生活の中にいると、時になーんて時間がかかるんだ!と絶望的な気分になったりするのですが、逆に、そんな古から普変のものが自分まで連綿と繋がっていることに安心したりもするのです。
今、ちょうど、そんな漆時間の中にいる制作中のものを次から紹介しようと思います。
きっと発表できるまでにまだとてもとても時間がかかるので!