玄襲

work
Feb 19, 2020

久しぶりに大道さんの撮影。
ずっと作りたかった『襲(かさね)』の黒バージョン『玄襲(くろかさね)』がほぼできあがったので、襲と同じアングルで撮ってもらいました。
大道さんもアシスタントの新村さんもお元気そうでよかった、楽しい撮影。気がつけば5時間があっという間に過ぎていました。1作品にこんなに真剣に取り組んでくださる大道さん、頭が下がります。

『襲』が『玄襲』という言葉になった途端、襲われる感がなんだか増えたように思うのはわたしだけでしょうか。玄が襲いかかってくる〜。
漢字の「黒」も「玄」もどちらも黒色を表しています。ところがこの2つには違いがあります。「黒」は下のレンガ(火の偏である4つの点)が火を表し、その炎から立ち上った煤で煙出しが黒くなっている様子が漢字の成り立ちだそうです。
対する「玄」の「幺」の部分はねじった糸束を表し、その上に横棒を渡して、つるしているようなイメージで「白い糸を黒に染色している様子」を表しているそうです。そして、垂らされた黒い糸の隙間から向こう側の世界を見る。そこには見る人によって抽象にされた世界が広がっているのかもしれません。中国の水墨画の世界は、この玄の世界なのだと思います。そんなわけで「黒」は物理現象による黒色、「玄」は精神世界をも含んだ黒です。
なので漆の黒も「黒」ではなく「玄」でいきたい。
『玄襲』は漆の黒色の世界の豊かさと奥深さを表しています。

Savoir-Faire des Takumiプロジェクトのために作った『Entropy』も漆黒の凹凸レンズのような物体なのですが、同じ漆の黒でも凹面と凸面では異なった黒に見えます。というのも裏テーマでした。

Exhibition in Paris

exhibition
Feb 17, 2020

パリでの展示が無事終了いたしました。
たくさんの方々に作品を見ていただくことができ嬉しく思います。ご来場くださった方々、TCIラボのみなさまありがとうございました‼︎
次はロンドンに行きます。
Je vous remercie profondement, d’abord Françoise!,L’equipe des Ateliers de Paris et bien sur les artistes francaises de Takumi!

idea
Feb 16, 2020

床に転がっていた森美術館の「シンプルなかたち展」の図録の表紙にふと目が留まった。
ハンス・アルプ(Hans Arp,1886-1966)の『鳥』という石の彫刻。黒くて、パッと見、漆のようにも見える。あ、でも、と思う。この物体はどれほど奥へいこうが石の(鉱物の)組成だ。あちら側に突き抜けるまでいったって、そこまではずっと石の組成なんだ。漆だったら表面でしかない。内側は木だったり、布だったり、違うもの。表面の膜でしかない漆。石の揺るぎない物質感に比べれば所詮表面でしかないのか、と少しがっかりもする。
でも、その膜によって内部まで変容したかのような錯覚をも起こさせる漆。そこに目を向けると、脆弱なようでいて、面白い性質が見えてくるんじゃないだろうか。

漆業界でも、耳障りのいい、サスティナビリティとか優しさ暖かさばかりがマーケティングのためにアピールされることには少し苛立ちを覚えます。
もちろん地球環境、温暖化問題を解決するために必要であることには異論はありません。

でも漆樹の血であり体液である漆をとるために樹に傷をつけ、終いには掻き殺すという行為は実は禍々しいもの。
薄っぺらな一面的な見方は嫌なのです。人間が生きるために他の生物にいかに依存してるのか、他の生物を犠牲にした上に生きているのか。そして共存させてもらってるか。自分の中の細菌たち含めて。
綿花だって野菜だって動物を食べていることだって何だってそう。その他者の痛みの円環の上に自身の生活が成り立っていることを自覚して引き受けることの大切さを思う。

土でできている陶磁器の茶碗つまり生物の死骸で私たちは茶を喫し、樹の血で塗られたお椀で味噌汁を啜ってる。
でもそう思うと、私たちは独りじゃない。

時の流れが速すぎて、クリスマスツリーもお正月飾りも出すのを忘れていた年末年始。
遅ればせながらあけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

金曜の夜は『12cmの世界展』のオープニングに行きました。
12cmの世界なので、12cmの正方形の作品という規定です。お誘いいただいてから、何を作ったらいいかなあと出すか出さないか迷っていました。
そうしたら、昨年最後のお仕事であるオノマトペマッププジェクトのサンプルがすべて12cmの正方形、これぞ12cmの世界だった!と気づいた。11cmでもなく13cmでもなく、12cmちょうど!小さな偶然に嬉しくなって、出品することにしたのです。
ちょうど余りも数枚あった笑。それを漆質感サンプルの中で一番気に入っていた「ちぢみーしわっちわ」に塗り直しました。新年から「しわっちわ」もなーと思い、タイトルは変えましたけど。

そういう訳で大阪中之島、京都にはない水とネオンの光にちょっと心踊る。そんな夜でした。

寝る前に物語の世界に没入したくて、娘の本棚から『大草原の小さな家』。
ローラ・インガルス・ワイルダーは65歳の時に初めてペンをとり、幼い頃の思い出を元にこの壮大なシリーズを書き始めたというからびっくりする。肌を撫でる風の香り、雲の動き、空の表情、大地の見せる様々な色、小さな動物たちの気配や物音、オオカミの息づかい、かあさんの夕ごはんの支度の匂い、暖炉のちらちらと揺れる明かり。
65歳になったときにこんなに細部まで生き生きと思い起こせるなんて、人間てすごいな。
わたしは何を記憶の奥深くしまえてるだろう。

今年は一日一日丁寧に生きたいと思います。

制作協力させていただいた電通大教授の坂本真樹先生のプロジェクト『質感オノマトペマップver.漆』が編集者の上條さんから届きました。あ、ロゴがゴールドに輝いてる笑!
マップには漆の質感サンプル写真がオノマトペとともに「やわらかい」↔︎「かたい」「湿った」↔︎「乾いた」「温かい」↔︎「冷たい」などの座標軸に配置されています。
坂本先生が書かれた記事、それからインタビューではわたしのまどろっこしい回答をすごくスッキリまとめていただきました。
などなど小さな冊子ですが盛りだくさんな内容です。
質感認識の科学的解明に少しでも貢献できたかな…。そしてまた発展系で坂本先生と一緒に何か作ることができたら、とサイエンスと漆がくっつくことを願っています。
最後になってしまったけれど、ご協力くださった堤浅吉漆店の堤くん、いつも本当ありがとうございます!

Entropy2

work
Dec 15, 2019

ちょっと前のこと、Savoir-Faire des Takumiプロジェクトのリーフレットのための撮影でした。
スケールがよくわからなくなるほど大きなスタジオ。漆黒の不思議な物体落ちてる感に、モノリス?という声も上がり・・・。カメラマンのなかじまさんマジックで、作品をぐぐーっと上げていただきました。感謝!
リーフレットが出来上がりましたら、またこちらにアップしたいと思います。

数学ブックトーク

day
Dec 15, 2019

念願の森田真生さんの『数学ブックトーク』に行けました。
クラクラするほど面白く刺激的で3時間必死でノートとった。自分の中に溶かし込みたいと見直しても、ミミズが這い回っていて、ミミズでしかなくて、ミミズがなかなか意味をなしてくれなくて困る。
世の中には凄い人がいるもんだなぁ。次回も来ようと誓う。数日前からしっかり寝てしっかり食べて万全体調整えて臨まなければ、と思う。字は、キレイに書こうと思う。

協力させていただいていた電通大坂本真樹教授のオノマトペマッププロジェクトver.漆が発表されるというので、京都大学芝蘭会館での多元質感知の国際シンポジウムに行って参りました。刺激的だった!!
わたしの制作したオノマトペセットを展示していただきました。色々な国の名だたる質感研究者の方々の目に日本の漆の質感はどのように映ったのでしょう。


Entropy1

work
Nov 05, 2019

Savoir-Faire des Takumiプロジェクトのための作品『Entropy』制作中。

表面にヘラでキリコ(漆と土の粉類のペースト)をつけてゆく。
一足一足山を登るように、一ヘラ一ヘラ未だ塗っていないところを埋めてゆく。
山登りは好きじゃない。でも大きなものを作るのは肉体労働に近いから好きだ。

虚構を作ることが生業の脳内労働者のダンナにすらてめえは観念的すぎると貶められるわたしにとって、漆の作業はまごうことのない「体験」だ。遠い遠い遥か古の人々と同じ漆の匂いを嗅ぎ、トロリとしたとらえどころのない液状の漆をあつかい、その神秘の艶に心躍らせる。

ほんの少し、ほんとうに少しずつしか進まない、でも確たる歩み。こんな間違いのないものはない。馬鹿馬鹿しいぐらい遅々として、現代のスピードとかけ離れ過ぎてるところに価値がある。

だから頭でっかちのわたしは、一ヘラ一ヘラ漆を置いていく。この手でもって。作業が終わったら、筋肉が礼儀正しく疲労していることが嬉しい。

歯医者では、顎の筋肉が前回より発達してますが何か思い悩んで噛みしめてませんかと指摘され、はたまた胸筋が増えたらしく胸も1カップぐらい大きくなった笑。仕事が身体に現れるなんて勲章みたいだとほくそ笑む。

あと私を実体に繋ぎとめてくれるのは、私の身体から生まれ落ちた柔らかな娘のほっぺに頬ずりしている時と、それから、あれかな。