Entropy1

work
Nov 05, 2019

Savoir-Faire des Takumiプロジェクトのための作品『Entropy』制作中。

表面にヘラでキリコ(漆と土の粉類のペースト)をつけてゆく。
一足一足山を登るように、一ヘラ一ヘラ未だ塗っていないところを埋めてゆく。
山登りは好きじゃない。でも大きなものを作るのは肉体労働に近いから好きだ。

虚構を作ることが生業の脳内労働者のダンナにすらてめえは観念的すぎると貶められるわたしにとって、漆の作業はまごうことのない「体験」だ。遠い遠い遥か古の人々と同じ漆の匂いを嗅ぎ、トロリとしたとらえどころのない液状の漆をあつかい、その神秘の艶に心躍らせる。

ほんの少し、ほんとうに少しずつしか進まない、でも確たる歩み。こんな間違いのないものはない。馬鹿馬鹿しいぐらい遅々として、現代のスピードとかけ離れ過ぎてるところに価値がある。

だから頭でっかちのわたしは、一ヘラ一ヘラ漆を置いていく。この手でもって。作業が終わったら、筋肉が礼儀正しく疲労していることが嬉しい。

歯医者では、顎の筋肉が前回より発達してますが何か思い悩んで噛みしめてませんかと指摘され、はたまた胸筋が増えたらしく胸も1カップぐらい大きくなった笑。仕事が身体に現れるなんて勲章みたいだとほくそ笑む。

あと私を実体に繋ぎとめてくれるのは、私の身体から生まれ落ちた柔らかな娘のほっぺに頬ずりしている時と、それから、あれかな。

「物理・知覚・感性の対応付けに基づく実社会の多様な質感情報表現」について研究されている電通大の坂本真樹教授の『オノマトペマッププロジェクトVer.漆』に関わらせていただいています。オノマトペセット、インタビューテキストともに無事完成できてうれしいうれしい。
「質感」を言葉で表すときに使用するのが「オノマトペ(擬音語・擬声語・擬態語)」だそうです。漆の質感表現については常日頃から考えてる。でも今回、多様な漆の質感のオノマトペ化を試みることは、より質感に迫ろうとする作業でした。大変微細な質感の違いを表すには、言語感覚における表現力が必要で、あーもっと来い来い表現力、と嘆きつつ。とはいえ、言葉で表しきれない違いを表現するのがヴィジュアルで勝負しているわたしたちの仕事なのかもしれないとも思うのです。質感と言葉の追いかけっこをしているようでした。
蒔絵と高蒔絵のサンプルにはオノマトペロゴを蒔絵化してみました。これがとても素敵なデザインで、優美な曲線が金蒔絵とひき立てあい、金を磨くのが愉しかった。
それから気に入っているのが、ちぢみ。漆は厚く塗りすぎると表面が縮んでしまうという特質があります。仕事としては、あー、厚く塗りすぎて縮んじゃった研ぎ直しの塗り直し、ということになるのですが、この縮みを今回はあえて質感表現として加えてみました。がっつりかっこよく縮んでくれた!
マップという形式ですので、紙媒体にまとめられて、12月に発表だそうです。また、学会でも発表されるそうで、楽しみです!